今回は片方の耳先をV字にカットされた猫たち(さくらねこ)の話です。そして、この国で暮らすと人と猫の話です。

「さくらねこ」とは、不妊手術済みのしるしに、耳先をさくらの花びらの形(V字)にカットしたノラ猫のことで、この耳のことを、さくら耳といいます。地方自治体と様々な猫の愛護団体、そして動物病院がタッグを組み、地域にいるノラ猫を捕獲し、不妊手術をした後に再びリリースすることが日本全国で行われています。

2020年4月から2021年3月までの1年間、日本では約45,000匹の猫が行政に引き取られ、その中の約20,000匹が殺処分されています。(環境省統計による) 10年前に比べると殺処分数は約1/7にまで減少しています。引き取られる数自体が減ってきていること、そして、譲渡会などを通じて、引き取られた猫たちの一部が新しい家族として迎えられていることがこの減少の背景にあります。

ノラ猫の不妊手術は、不幸なノラ猫の数を増やさないことを目的に行われており、「さくらねこ」は捕獲の対象とはならず、地域猫として住民とよい関係を保ち、生きていきます。勿論、中にはどこかの家で、人間との暮らしを始める猫もいます。

猫は大変に繁殖力が旺盛な生き物で、1匹のメス猫が3年後には2000頭以上に増える可能性があると試算されています。そう言えば以前は表に出れば始終視界を横切っていたノラ猫たちの姿が 、近頃、随分と減った様に思います。きっと、「さくらねこ/さくら耳」の様な活動の成果なのです。「さくらねこ」たちは一代限りで死んでいき、過酷な生涯が待ち受ける不幸の連鎖は途絶えるのです。
「人間と猫の共生」という全体視点から見れば、「さくらねこ」活動はとても素晴らしい解決法なのでしょう。しかし、「さくらねこ」それぞれの人生(猫生)を考えると、何だか私には彼女たちが可哀想にも思えてしまうのです。

我家のおーちゃん(メインクーン)は大手のペットショップから我家に来てくれました。車に乗って家に帰り、小さなキャリーから初めてリビングに出てきてくれたときの喜びは今も忘れません。
そして、数か月がすぎ、女の子のおーちゃんは不妊手術をしました。何も体に具合が悪いところがないのに手術をする、こちらの都合で生き物の最も重要な本能である「子孫を残す」という権利を奪ってしまう。長い間一緒に暮らすために必要なことだと理解はしていたのですが、手術のため、おーちゃんを動物病院にひとりで残して家に戻ると、おーちゃんのいない家の静かさと共に、本当に手術を受けさせてよかったのかという思いがこみ上げてきました。
翌日、病院にいき、手術が終わったおーちゃんを家に連れて帰りました。おーちゃんは毛並みがボサボサで疲れきっている様にみえました。そして、キャリーから出てくると家の中で一番静かな部屋の静かな場所によろよろと歩いていき、すぐに眠ってしまいました。私はただ「ごめんね」としか言えませんでした。

人間と猫、人間とあらゆる生き物にとって最も幸せな共存とはどの様なものなのでしょうか。とても難しい問題で、「正解」として、誰もが納得できる答えはありません。何よりも、パートナである猫や犬が何を望んでいるのか、人間には分からないのです。

おーちゃんに「ねぇ、どうするのが一番幸せなの?」と聞きました。すると、少し間があって、目の前でごろんと転がり、お腹を見せてくれます。そして「一緒にいましょうよ、何年も、何百年も」そんなことをおーちゃんが答えてくれた様に思えたのです。「そうだね、ずっとずっと一緒にいようね」と私たちは約束をしました。

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