気配を感じて振り返るとアクビちゃんがいて、ニコニコと笑っています。「おじさんの願いを三つ叶えてあげますぅ!」と言います。「それはどうも、だけど急に何で?」あなたがそう尋ねると悪びれた様子もなくアクビちゃんはあなたを見上げて言うのです。「だって、おじさん、可哀そうですぅ、いろいろと」 よく分かっていらっしゃる。
※タツノコプロ ハクション大魔王 https://tatsunoko.co.jp/works/the-genie-family

「それじゃ、お金が1億円欲しいな」とあなたが言うと、「それはダメですぅ」と瞬殺されます。「お金を勝手に出してしまうと通貨偽造法で捕まってしまいますぅ」

「それじゃ、オーデマ・ピゲの腕時計が欲しいな」とあなたが言うと、「それもダメですぅ」と再び瞬殺です。「いくら魔法でも時計の様な精密なものは出すことはできないですぅ、それにお店や金庫の中から移動させると窃盗罪で捕まってしまいますぅ」 こいつ、本当に魔法が使えるのかよとあなたは疑い始めます。

「それじゃ、3つのお願いを100のお願いにして欲しいな」とあなたが言うと、「おじさん、馬鹿ですぅ?」と最早あきれ顔です。

あなたはいろいろと考え始めます。どうやら「形があるものが欲しい」というのはダメらしいことが分かりました。きっと何を言っても、魔法使いのくせに「ならぬものはならぬのです」と昔の大河ドラマのセリフの様にバッサリと切り捨てられることでしょう。
それでは「形のないもの」をお願いすることにします。

試しに「それじゃ、私の高血圧を直して欲しいな」とあなたが言うと、「根本的な治療には生活習慣の改善が必要ですぅ」として、アクビちゃんは今一瞬での劇的な改善には着手してくれません。こいつ、何様なんだよ。

「おじさん、今、本当に願っていることは何ですか?」アクビちゃんがクリクリとした目であなたに問い掛けます。「そうだなぁ…」 あなたは遠くの土地で暮らす息子夫婦のことを考えます。「息子たちが元気で暮らしてくれることかなぁ」 アクビちゃんは嬉しそうに答えます。「はい、今、おじさんの願いを叶えたですぅ。息子さんたちはお元気ですぅ」 アクビちゃんの実力に対するあなたの疑念は深まる一方です。

「次のお願いは何ですか?」「そうだなぁ、何もしてあげられずに亡くなってしまった父さんと母さんに会いたいな、そして詫びたいんだよ」あなたは思わず心の底にある思いを口にしてしまいます。
アクビちゃんはポシェットからスマホらしきものを出して父親(ハクション大魔王だよ)に呪文を聞いている様子です。ときどき、何やらメモも取っています。本当に大丈夫かよ。

「はい、今、おじさんの願いを叶えたですぅ。今夜、夢の中でお二人に会えるですぅ。もしかすると、たっぷりと叱られるかも知れないですぅ」これじゃ、ほとんど詐欺師のやり口です。

「どうもありがとう、アクビちゃんのやさしい気持ちは十分に分かったから、そろそろ家に帰った方がいいよ、きっとみんな心配しているよ」とあなたは言います。するとアクビちゃんがちょっと困った顔をして言います。「おじさん、今ので3つ目のお願いはおしまいですぅ。それでは、おじさんの願いどおりに、アクビは帰ることにするですぅ。それじゃ、お元気で」 そして、次の瞬間にはアクビちゃんの姿はもうどこにもありませんでした。最後だけ、見事な魔法を見せてくれました。

一人残されたあなたはスマホで息子に久し振りに電話をします。何回かの呼び出しの後に息子が電話に出ます。「どうしたんだい、父さん、こんな時間に」「元気にやってるか?」「あぁ、忙しいけどね、みんな元気にやってるよ」 あなたはアクビちゃんの魔法を信じることにします。

そして、あなたは考えるのです。今夜、夢の中で両親とどんな話をしようかと、何といって叱られるのだろうと。

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