3年前の「高齢無職夫婦は(公的年金収入だけでは)老後2,000万円不足する」という金融庁の報告書はとても頭のよい人が書いた用意周到な「炎上シナリオ」だったのでは?と私は思っています。当時、このことで盛んに政権与党を攻め立てた人たちや騒ぎ立てたマスコミというのは、期せずして、しっかりとシナリオライターが描いた役割を果たしたことになります。してやったりです。だって、当時の大騒ぎを通じて、みんなハッキリと脳に刻み込んだでしょ、公的年金だけだと老後は心もとないので、これには自己責任で臨むしかないってね。
※老後2,000万円不足問題:金融審議会|市場ワーキング・グループ報告書(P16)

それに、もともとこんなことは当面の当事者である中高年は百も承知のことだったのです。理解が及んでいなかったのは、まだ老後のことなど考える必要がない世代と富裕層、そして、公務員+議員の方々だけだったのです。ひとくくりにすると「幸せな人たち」だけが「聞いてないよ、ヤー」と騒いでみたのです。自分たちには当面関係ないのにね。

若い世代は「疑い」が確信に変わります。自分たちの老後は自分たちで守る。これから先、少子高齢化による人口動態は変わり様がありません。故に、賦課方式の年金制度では「2065年には1.3人の現役世代が1人の年金受給者を支える」ことになることは以前から指摘されていたのです。けれど、「何とかなるかな?」と若干は疑っていたことが、金融庁により止めをさされたのです。「何ともならない」ってね。
※1人の年金受給者を支える現役世代:1950年_12.1人、2017年では2.2人

貯めるか、増やすか。今の節約ブームと投資ブームの火付け役は「金融庁の老後2,000万円不足しますよレポート」だと私は思っているのです。今の年金制度を破綻させないためには、「年金だけでは暮らせない」って国民に理解させる必要があったのです。

「年金給付を増やさずに老後を生き抜くためにはひとりひとりの自助努力が必要である」ということを、国民自らに理解、納得させたのです。しかも「具体的な数字」まで例示して、どうやったらこのお題を解くかまで自分で考えさせることにしたのです。見事です。洗練された炎上テクニックでした。

そもそもこのレポートをベースとした議論が成り立たないことは少し考えればすぐに分かるのです。試算における「受給額」「月々に費消する金額」は人それぞれでかなり異なること、預貯金や金融資産の保有があること、多くの人が年金受給後(65歳)以降も「年金以外の収入」を得ていること、即ち、実際には「不足」は起きていないのです。
故にこのレポートは「具体的な額」の過不足を問題にしたものではなく、何度も繰り返しますが、「年金だけでなく自助努力もよろしくね」というメッセージと受け取るべき性質のものだったと私は納得している訳です。

そして、このレポートは「少子高齢化問題」が生み出す「年金問題」に楔を打ち込んだだけでなく、「労働力不足」というもう一つの問題も刺激した様に思うのです。そこまでのことを果たして当初から狙っていたかは不明ですが。

年金受給開始年齢を65歳に引き上げる(2012年法律改正)ことと呼応すべく、企業の雇用期間の延長(65歳までの雇用義務:2012年改正高年齢者雇用安定法、70歳までの努力目標:2020年改正高年齢者雇用安定法)標)が行われており、いわゆる「定年後から65歳までの無収入期間」を企業が補填することにした訳です。また、これは今後、年金受給開始年が70歳に引き上げられる可能性があることも「明らかに暗示」していると思います。

けれど、企業としても、生産性の低い高齢社員を、しかも大量に70歳まで雇用することにはムリがあります。するとこれから、現在盛んに行われている「早期退職」の勧奨だけでなく、従業員の解雇に関する法律の見直しが図られるかも知れません。つまり、希求された「労働力の流動化」がようやく動き出す訳です。つまり、「大量の労働力が市場に出て来る」のです。

そして、企業の外に出て行った大半の中高年を待っているのは「給料の安い仕事」です。清掃、警備、介護、調理、設備管理、軽作業など、これらの「社会的に必要だけれど、給料が安い仕事」に、「流動化し、放出された労働力」があてがわれることになります。

日本で人手不足なのは「給料の安い仕事」だと言われています。以前はこの問題を解決するために「外国人労働者」の導入が盛んに議論されてきましたが、今後、この問題は「中高年」「シニア」の雇用により、様子が変わってくるかも知れません。
ちなみにこれらの仕事は75歳、場合によっては80歳まで続けることができるものも多く、「退職後のお金問題」への受皿となりえるのです。

単純な考察ではありましたが、「老後2,000年不足問題レポート」は「年金制度の維持」と「労働力不足」の二つを国民の合意の下で解決?してしまったみたいに思うでしょ。本当は「長い間、一所懸命働いて支払ってきた社会保険料に応じて給付される年金だけでは暮らせないってどういうことなの?」とか「上の世代の人たちとの間で年金の『世代間格差』が発生してるでしょ!」とか、いろいろな論点があるのだと思います。ただ、このレポートと当時の大騒ぎが、誰もが「老後のお金」のことを真剣に考えるきっかけになったことは確かだと思うのです。

最近は余りメディアでも取り上げられることのない、蒸し返されることのない「老後2,000万円不足問題」のことを久し振りに考え、現状起きていることと照らし合わせたら、何となく、「ふーん、そうなんだ」と思ったというだけのエントリだったのです。大げさなエントリのタイトルですよね、ごめんなちゃい。

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