私がマックス・リヒターに辿り着いたのは、youtubeのおかげです。
週に3日働いている仕事先が自宅から通勤時間90分という「少しも楽ではない」場所にあるのですが、
幸いなことに通勤の際に電車に「座れる」のです。そこで、早朝、座っている間にスマホで聴くと気分が
落ち着く(自然と寝入ってしまえる)音楽を探してみることにしたのです。

最初は大昔によく聞いていたアンビエント系の音楽(ブライアン・イーノなど)を聞いていたのですが、どうにもしっくりこないのです。明確な理由はないのですが、音楽に込められたアーティストの芸術意識の様なものが「角が立っていて」眠らせてくれないのです。

しばらくは、youtubeでこの系統の音楽を渉猟していましたが、あるときに怪しげな「ソルフェジオ周波数」という音楽の動画がレコメンドされる様になります。ソルフェジオ音階とは、ソルフェジオ周波数( 174Hz、285Hz、 396Hz、417Hz、528Hz、639Hz、741Hz、852Hz、936Hzの 9 種類 )をもとに作られた音階のことだそうで、それぞれの周波数には「DNAの傷を治す」とか、「恐怖やトラウマから開放してくれる」とか、それぞれの癒しの効果が謳われています。これは所謂「ヒーリング」音楽なのですが、試しに幾つか聞いた曲は、私には「変な曲」と感じてしまうものが多く、睡眠導入の音楽としてはNGでした。

そのうちにyoutubeは現代音楽の作曲家の楽曲動画を私にオススメする様になりました。フィリップ・グラスとかスティーブ・ライヒといった著名な作曲家のものが中心で、これはそれなりに私の要求を満たしていたのですが、これも長時間聞くには、曲の中にしばしば顔を覗かせる作曲家のエゴだったり、実験意識の様なものに付き合わざるを得なくなり、結局、意識は眠らずにきちんと向き合ってしまうので、電車を降りるころにはぐったりしてしまうのです。

そして、そんなこんなをしている中に辿り着いたのがマックス・リヒターだったのです。最初に聞いたのは、私の目的、そのものがタイトルになっている「sleep」でした。作品は何と8時間以上に及ぶというもので、この曲を演奏するコンサートが世界の各地で行われ、観客は開演時間の真夜中から明け方まで、会場に並べられたベッドに横たわり、音楽を聴くもよし、眠ってしまうもよしという場だったそうです。ここから抜粋して再編集されたもの(それでも75分!)が「My First Max Richter」だったのですが、最初の音が流れ出した瞬間に「あ、これ!」と思い、5分も聴かない中にamazonのデジタルミュージックサイトでDLをしていました。

Max Richter: Sleep (extraits)

ポストクラシカルの「私が考える特徴」をこのエントリの(1)で5点をあげましたが、マックス・リヒターはここに加え、健全な「商業主義の気遣い」を最優先している様に思うのです。自分の尖っている部分、自分が見つけた音の秘密の様なものを彼は敢えて折り込まない様にしていると私には思えるのです。リスナーの日々の生活、何も特別なことも起きず、大体が退屈で、大体が満たされない、そんな時間のサウンドトラックとして、如何なる思考も邪魔をせず、いかなる感情も押し付けない、そんな音楽です。

私がリヒターを聴いたのは、実はyoutubeでの出会いが最初ではなかったことがしばらくして分かりました。youtubeでマックス・リヒターを発見する数日前に、amazonプライムで「メッセージ」という映画を見たのですが、そこで彼の代表曲の一つである「On The Nature Of Daylight」が使われていたのです。
難しいテーマをエンターテイメントとして上手くまとめあげた哀しい映画でしたが、そこでこの曲が使われていました。偶然ではありますが、何かに「辿り着く」というのはこういうものなのだろうなと思うのです。

今、通勤の時間は心地よいリラックスの時間となっています。結構にぐっすりと眠ってしまいます。最初に購入した「sleep」に加え、少しづつリヒターの音楽との出会いを続けていきたいと思っています。

私が知らないだけで、素晴らしい作曲家や演奏家、作家や画家、最近の言葉で言えば表現者が、まだまだ世界には満ち溢れているのでしょう。いろいろと先送りできないことや、上手くいっていないことが私の回りには山積していますが、「幸せな出会いがあることが信じられる世界」に今日も感謝です。

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