時々、カミさんと別の土地で老後を暮らす話をします。温暖で雪は滅多に降らず、緑の多い内陸部で、家は隣家から30m以上離れていて、近くに評判のよい病院と新鮮な食材が安く手に入るスーパーがあり、Amazonで注文をすると翌日は無理でも翌々日には商品が家に届く。
そんな土地のことです。そこに手頃な大きさの平屋を建てて暮らすというプランです。
勿論、愛猫のおーちゃん(メインクーン)も一緒に連れていきますが、今の縄張りを捨てることに納得してくれるまでには相当の時間が掛かりそうです。

とは言っても、そんな都合のよい「天国の様な場所」が簡単に見つかったり、手に入れることができる訳もなく、いつも話の途中で、「でも、ここでの暮らし(我家)は快適だよね」という結論に帰結して、私とカミさんの与太話はお開きになります。

都心に出るには1時間弱掛かる「名ばかり東京」であっても、私はここでの暮らしの快適さに満足をしています。それに何といっても先立つものがありません。銀行だって、これから大して稼ぐことができないおじいさんにはお金を貸してはくれません。私が若い頃はあんなに気持ちよく住宅ローンを貸してくれたのに何ということでしょう。まるで私という人間の価値が一気に下がったかの様です。まぁ、下がったんですがね、限りなく「0」に、否、less than zeroに。

「約束の地」とは旧約聖書で神がイスラエルの民に与えることを約束した土地のことですが、ここから転じて「巡り会うべくして辿り着く人生の終着地点」として使われている言葉です。

旅先で、ふと目にしたTVプログラムで、返礼品目当のふるさと納税先の紹介動画で、きっかけや状況はともかく、然るべき人にとっては「約束の土地」は突然に目の前に現れます。そして、そこでの暮らしを始めるべく、充実した毎日が始まります。とても幸せな経験を神さまに授かった幸せな人たちがいるのです。

一方で「住めば都」、「いつの間にかそこで暮らしていた」といったルートから無事に「約束の地」にご到着!という人もいます。むしろ、このケースの方が大多数なのでしょう。

国土交通省による「住宅市場動向調査」(令和元年度)によれば、
●「約束の地」を手に入れるための購入資金は、注文住宅新築世帯で平均 4,615 万円、建て替え世帯で平均 3,555 万円、分譲戸建住宅と分譲マンションの取得世帯でそれぞれ平均3,851 万円、4,457 万円、中古戸建住宅と中古マンションの取得世帯でそれぞれ平均 2,585 万円、2,746 万円。
住宅ローンの平均返済期間は、新築一戸建:32.7年、新築マンション:31.5年、中古戸建:28.1年、中古マンション:28.9年。
住宅ローンがある世帯の年間返済額は、分譲マンションの取得世帯で最も高く131.6 万円。注文住宅、分譲戸建住宅、中古戸建住宅の取得世帯でも 100 万円を超える。
世帯年収に占める返済負担率は、最も高い分譲戸建て住宅で 20.0%、最も低いのは中古マンションで 13.9%。
なのだそうです。
※出典:令和元年 住宅市場動向調査(国土交通省) https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001348002.pdf

つまり、60歳/65歳あたりまでに住宅ローンを完済するためには、30代で「約束の地」を定め住宅取得をせねばなりません。それから約30年の間、年収の1/5を「約束の地」に捧げるのです。上に記した数字すべてにため息がでます。
現代の「約束の地」は見つけるよりも、見つけた後の方がずっと長い苦難の旅なのです。

昨今は都心の不動産取得費用が更に上昇したこと、テレワークの導入により会社の近くに住む必要がなくなったことから、「約束の地」を求めて、都心を離れる若い人たちが増えている様子です。思いもしなかったところに「約束の地」はあるものなのです。

私もまた、長い住宅ローンの支払いをようやく1年程前に終えたところです。実際のところ、住宅ローンの支払いがまだ何年も残っていたら、「早期退職」は頭にも浮かばなかったと思います。

お金の問題だけでなく、住めば都というだけでなく、今住む家から私が離れるつもりがない本当の理由があります。それは、この家は亡き父が設計してくれた家だからなのです。
父は獣医から後に勤め人になった人で、設計士ではありませんでしたが、25年程前に、家を建てたいと相談したところ、「こんな家が住みやすいぞ」とアイデアを絵にしてくれたのです。それをベースに設計士さんが設計図を起こしてできあがったのが我家なのです。
当時、生意気盛りであった私が不思議と「そうだね、ありがとう」と素直に、そのままに受け入れたのです。それは、ここが「約束の地」「終の棲家」に他ならないと直感をしていたからに違いありません。

父があれやこれやと考えながらエンピツで描いた「設計図らしきもの」の上で暮らしている、そんなことを思うと、とても愉快で、今も父が近くにいる様な気持ちになるのです。

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